東京高等裁判所 昭和27年(う)1438号 判決
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(判旨)昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件」は、旧憲法第八条に基いて発せられたいわゆる緊急勅令であつて、降服条項を実施するため適当と認める措置をとる連合国最高司令官の発する命令を履行するに必要な緊急措置として制定されたものであつて、ポッダム宣言の受諾に伴い連合国最高司令官の為す要求にかかる事項を実施するため特に必要ある場合においては命令をもつて所要の定を為し且つ必要な罰則を設けることができる旨を規定したものである。そして、同年勅令第五百四十三号「ポッダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件ノ施行ニ関スル件」により右緊急勅令に基く命令に規定し得る罰則の範囲が定められたものである。右緊急勅令は、同年十二月中貴族院及び衆議院の承諾を得その後は旧憲法上法律と同一の効力を有することとなつたものである。旧憲法上法律は、その内容が新憲法の条規に反しない限り、新憲法の施行後もなお法律としての効力を有することは、新憲法第九十八条第一項の規定によるも明らかなところであるから、新憲法施行後においても、わが国の降服条項実施の義務に変化がない以上、右緊急勅令は、その内容に徹し、同様法律としての効力を有するものと言わなければならない。昭和二十一年勅令第三百十一号連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する勅令及びこれを全面的に改正して制定された昭和二十五年政令第三百二十五号占領目的阻害行為処罰令は、いずれも、新憲法上も法律としての効力を有する前記緊急勅令に規定された前記委任に基いて制定されたものであつて、新憲法第七十三条第六号の規定に適うものと解されるから、新憲法上も有効な刑罰法規と言わなければならない。該勅令又は政令に規定する犯罪の具体的構成要件は、連合国最高司令官の指令がなければ充足されず、その指令は、直接には日本国民に対するものではないけれども、これが日本国政府に通達されたときに国内法たる該政令第二条第四条又は該政今第一、二条の内容となるものであるが、本件の昭和二十年九月十日附連合国最高司令官の日本国政府宛言論及び新聞の自由に関する覚書は、右勅令施行前既に日本国政府に通達された指令であるから、右勅令又は政令の制定の際からその内容となつていたものであつて、本件については、該勅令又は政令の施行当初から、犯罪の具体的構成要件は、充足されていたものである。勅令又は政令の施行当初から、犯罪の具体的構成要件は、充足されていたものである。該勅令又は政令で禁止される行為は、右勅令第二条第三項又は右政令第一条に規定するように、連合国最高司令官の日本国政府に対する指令の趣旨に反する行為、その指令を施行するために連合国占領軍の、軍團又は師団の各司令官の発する命令の趣旨に反する行為及びその指令を履行するために日本国政府の発する法令に違反する行為と限定されており、この指令、命令又は法令の発効後これに違反する行為が処罰されるものであるから、右勅令又は政令は、刑罰法規が不確定で罪刑法定主義に反するものと言うことはできない。ことに本件言論及び新聞の自由に関する覚書は、本件政令の制定前昭和二十一年八月二十四日附官報でその内容が公示されているのであるから、右政令施行後の事件たる本件においてかかる罪刑法定主義違反を主張し得べきものでないことは、もとより言うまでもないところである。なお、右覚書は、公共の福祉に反する限度において国民の言論、出版その他表現の自由を制限したものであることは、その内容に徴し明らかである。従つて、前記勅令及びこれに代わる右政令及びこれに引用される指令たる右覚書は、以上いずれの点より見るも、憲法に違反するものと解すべき事由はない。右勅令、これに代わる本件政令は、わが国が連合国に降伏した結果、連合国最高司令官の占領管理のもとにおかれていた一時的異常事態に対処するための法令であることは、その内容に徴し明らかなところであり、かかる異常事態が終了すれば廃止されるに至るべきことは、当初から豫知されていたところであつて、限時的、暫行的性格を有するいわゆる限時法に属するものと言わなければならない。そして、右勅令及びこれに代わる右政令は、いずれも、連合国最高司令官の発する指令を履行することを目的として制定公布されたものであつて、直接には連合国又は連合国占領軍のための法令のようであつても、他面同時に連合国最高司令官の指令に従いその占領政策に協力して占領下の国内の秩序を保持整備し、速やかに新憲法の要望する平和な民主的独立国家として日本を再建しようとするわが国民の福祉にも適うものであつて、わが国民のための法令でもあると解されるところである。それ故、平和条約の発効により占領状態が終了し、爾後降伏条項に従つて連合国最高司令官の指令も、これを履行する義務も消滅したからとて、爾前の占領期間中に公共の福祉に反して前記勅令又は政令に違反した行為に対する可罰性の評価には変りはなく、その可罰性が遡つて消滅すべき理由はないから、かかる行為については、行為当時の法令に照らして処断すべきことは当然である。昭和二十七年五月七日法律第百三十七号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く法務府関係諸命令の措置に関する法律第三条第一項は、疑を避けるために、叙上の当然の法理を国家の意思として宣明し、右のような行為については刑が廃止されたものでないことを明らかにしたものである。なお、右政令は、平和条約発効後の行為については適用の余地のないことは言うまでもないが、元該政令は、前記緊急勅令の授権により制定されたものではあるが、これを補充する内容を有するものではなく、これと離れて存在し得る内容を有するものであるから、平和条約の発効により爾後の行為については適用の余地がなくなり、且つ右緊急勅令が廃止されても、法規整理の都合上暫時これを形式的に存続させることは不可能ではない。昭和二十七年四月十一日法律第八十一号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件の廃止に関する法律は、かかる見地から平和条約発効の日に前記緊急勅令を廃止することとしながら、右政令をなお暫時形式的に存続させたものと解されるのであつて、前示同年五月七日法律第百三十七号第二条第六号は、かく平和条約発効後形式的にのみ存続していた該政令を廃止したものと解されるところである。そして、同法律第三条第一項は、前叙のように平和条約発効前の行為に対する処断に関する当然の法理を宣明したに過ぎないものであつて、一旦廃止された刑罰法規を再び新たに制定したものではないから、もとより所論のように憲法第三十一条第三十九条に違反するものではない。原判決は、所論のように無効な法規を適用して被告人等を処罰したものではない。論旨は、すべて独自の見解に基くものであつて、理由がない。
(説明)本件は、いわゆる政令第三二五号違反処罰有効無効論争における当庁判例の一事例であり、その立場は大体二七・七・一五第五刑事部判決と同一傾向であり、本誌二四号二八事件とはその説明の方法において異なるところがあるが結論は同じである。その他最近迄この種事案の判決数例を有するも、いずれも結論を異にするものは現われていない。